近代日本の官僚

「歴史を忘れた民族に未来はない」
最近はあの国とかその国なんかが日本にやかましく吠えているが、まあ、いいだろう。
言い得て妙だ。

と、いうわけで少し日本の歴史のお勉強をしてみた。
中公新書刊、清水唯一朗著「近代日本の官僚」という本がある。
小冊子に見えて内容が濃く、なかなか読破に時間がかかっていたが、ようやく読み終えた。これが面白い。
この本は現在に至る日本統治のあり方について、主に明治維新以後から大正期にかけての官僚に焦点を当てることによって、我々の先達がどのように考え、行動し、国家を作っていったのか、そこから現代にまで続く官僚の功績と宿痾について明らかにしている。
その調査資料は膨大かつ緻密で日本が建国以来初めて国際社会に躍り出て、今日に至る強固な統治機構の建設とその問題点について詳細に分析している。

なかでも特記されるべきは「五箇条の御誓文」だ。

  • 一、広く会議を興し万機公論に決すべし
  • 一、上下心を一にして盛に経論を行ふべし
  • 一、官武一途庶民に至る迄各其志を遂げ人心をして倦ざらしめんことを要す
  • 一、旧来の陋習を破り天地の公道に基づくべし
  • 一、知識を世界に求め大いに皇基を振起すべし

五箇条の御誓文は一八六八年三月十四日、実に戊辰江戸城総攻撃前日に公布された。この五箇条の御誓文の精神はその後も尊重され続け、大東亜戦争終結後、占領軍に日本独自の民主主義が存在していることの根拠にもなった。
著者は、五箇条の御誓文のうち、従来第1条及び2条が特筆されているが、第3条「各其志を遂げ人心をして倦ざらしめん」ことこそ、明治以後、個人の立身出世と国家の繁栄を結びつけ、発展させた原動力と強調する。

昭和天皇は敗戦後の人間宣言に於いて五箇条御誓文を全文引用され日本に古来より民主主義が深く根ざしていることを明確にされた。欧米からの借り物ではなく、日本では独自の民主主義が明治以来深く根ざしていた。

司馬遼太郎は著書で日本人は根本的に身分を信じていないところがあり、それはおそらく、応仁の乱で上下問わず戦乱が身分をかき回してしまったためではないかと語っている。二条天皇の「上をもって下となし、下をもって上となさん」との呪いは利いたわけだ。秀吉の天下人出世はその典型でもある。古来、長く天皇は権威であって権力でなかったことも日本的平等感を生み出している一因かもしれない。日蓮大聖人は権力者を「わずかの小島の主」とし、国の字は国がまえに「民」を使われている。

建国以来の長い歴史的な背景もあり、奇跡的な明治維新が実現したわけだが、欧米のお題目に過ぎなかった人権に日本人は感動する。そして国際法の存在を知り、持ち合わせた遵法精神から忽ちこれを自らのものとした。つまりは日本人の心にフィットしたということだろう。

著者は明治初期の立憲の時代から大正期の憲政の時代まで、身分を問わず全国から優秀な人材を集め、それを国家建設推進の原動力とした根底に、この自らの立身出世が国家の繁栄となるというロジックの「各其志を遂げ人心をして倦ざらしめん」とする思想があると喝破する。実に達観だと思う。

結局、日本の理想、正義は同じ海洋国家として覇権を争ったアメリカに無惨に砕かれてしまうわけだが、第二次世界大戦前にタイと日本以外のアジア諸国が全て植民地、あるいは内乱に侵されていた状況を完全にひっくり返し、敗戦後、多くのペナルティーを背負いながらも黙々と国を再建した日本は、経済力でアジア、アフリカ諸国を支援していくことになる。

この本は良くも悪くも日本という国家を牽引してきた、今に至る官僚機構がどのように生まれ、どのように変化し、どのような問題を内在していたかを知る好著であり、現在の官僚機構、政党政治を正確に理解する格好の入門書である。

「各其志を遂げ人心をして倦ざらしめんことを要す」

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